昨年5月末に成立した「GX脱炭素電源法」の中には「原子力基本法」の改正も含まれ、基本方針として「原子力発電の活用は国の責務である」ことが明記され、国の原子力利用促進に向けた覚悟が示されました。一方、同年4月末の「原子力関係閣僚会議」では、既設原子力発電所の最大限活用として、運転期間の取扱いに加えて、設備利用率の向上等、安全性確保を大前提に運転サイクルの長期化、運転中保全の導入及び定期検査の効率的な実施に取り組むことが決定されました。
実質的な運転期間延長が可能となり、未申請の原子力発電所の再稼働申請が期待されますが、原子力発電所を最大限活用するには、設備利用率向上も必須の要件と考えます。米国では、44年前のTMI事故後の弛まぬ改善努力の結果、安全性向上とともに大幅な設備利用率の向上(50%台から90%超へ)を達成し、両者の両立を実証しました。この設備利用率向上には、運転サイクルの長期化、定検期間の短縮、リスク情報を活用した予防保全最適化(PMO)の導入(保全の重点化、運転中保全、状態基準保全等)、計画外停止期間の短縮等、保全上の主要課題解決の寄与が大きく、我国の今後の取組み方を示唆しております。
米国の成功から既に30年以上が経過し、我国では、米国の成功の理由・根拠を学び改善努力をしてきましたが、結果として保全上の主要課題は一向に解決されず、現在もほぼそのままの形で残っています。改善努力を無に帰するような、社会問題級の大きな事故、不祥事等が数年毎に繰り返し発生し、世代交代もあって思うように保全上の主要課題に取組めなかったことが一因と考えられます。そして、現在は福島第一原発原子力発電所(以下、1F)事故の教訓を踏まえた対策や運転再開に向けた懸命な努力がなされております。1F事故後既に12年が経過し、米国等の好事例に学んで確立された新規制基準や新検査制度が施行された「新しい時代」を迎えています。現状に甘んじることなく、現状を打開・刷新するために、少し先を見た議論を開始すべき時が来ているのではないでしょうか。
本セミナーでは、古くて新しい課題である「設備利用率向上」を阻むものの抽出やその解決策、事業者の検討状況等を紹介するとともに、今後の展開に向けた取組みの在り方について議論します。その中には、再稼働を果たした先行プラントのSA対策工事や特重施設工事等の効率化の事例はもとより、再稼働に向けたプラントの今後の取組みに寄与できる方策等の議論も含めたいと考えます。こうした議論を踏まえて、GXへの大きな貢献が期待できる「原子力発電所の最大限活用」に向けた取組みを加速したいと考えます。