理事長挨拶
日本保全学会の
新しい展開を目指して
日本保全学会は、2003年に設立された学術団体です。その目的は、多領域横断型の保全業務を学術的に体系化することで保全の学術基盤を構築し、それを適用して保全の高度化と最適化を図り、以て原子力のような大規模システムの安全性向上に資することにあります。
発足に当たって、学会設立の理念をどのように設定するか慎重な審議を行いました。それまでの大学での研究活動、日本AEM学会や日本機械学会における実務を重視した活動実績などを踏まえ、原子力発電設備の膨大な保全業務の体系化を通じて安全性向上を計ることが時代の要請であると認識して、これを学会設立の基本構想にして現在に至っております。
学会が発足してから既に17年が経過しました。その間、学術講演会や保全セミナーの開催、学会誌及びE-Journalの発行、保全に係る課題解決のための検討会とその成果物の刊行等と、多くの活動実績を積み上げてきました。特に原子力発電所の安全・安定運転を検討する場を、例えば、維持規格の導入と充実、品質保証システムの保安規定への導入、現在では米国発信の原子炉監視システム(ROP)の導入などに関する学術的土俵を提供してきました。
とはいえ、2011年の東北地方太平洋沖地震で発生した津波による東京電力福島第一原子力発電所の事故は、原子力に対する社会的評価に劇的な変化をもたらし、一時活動に停滞が生じ、将来が危惧されました。しかし、事故後9年を経過するに及び学会活動に活気が見られるようになってきました。これは原子力関係者の言葉に尽くせぬ努力の賜物だと考えています。東北・北海道支部に加えて、2019年10月に西日本支部が発足した状況はその兆しと捉えることができます。
しかるに、多くの原子力発電所はいまだ再稼働を果たしていません。この状況を克服するには、新規制基準に沿った膨大なバックフィット工事により原子力発電所の安全性が著しく向上している現実、多発する異常気象の防止には原子力は特効薬であるという事実に着目して、社会に対し、原子力の歴史的必然性についての理解を得るべく、原子力安全を支える保全学の観点から、効果的なメッセージを社会に発信しています。本年初頭に完成した「原子力保全ハンドブック」はその証しの一つであります。
ここに来て、世界は新型コロナウイルスに襲われ、災厄を克服しようと躍起になっています。ウイルス感染の危険にさらされている日常は、人々の人生観を変え、やがて社会を根底から変革することになるかも知れません。
日本保全学会は、時代に即応できる小学会の利点を活かして、衰退している原子力時代の再来を遠望して、人工知能技術などに支えられた新しい保全技術の創出に邁進し、新しい時代に対応していきたいと考えています。
これまで同様、学会員の変わらぬご支援とご協力をお願いしつつ結びとします。
2020年 7月
会長挨拶
日本保全学会長の
就任にあたって
2024年7月より日本保全学会の第5代の会長に就任いたしました。
歴代の会長の先生方のようにはいかないところが多々あると思いますが、学会の今後の企画・運営などに対して責任感と緊張感をもって対応していく所存でございますので、よろしくお願いいたします。
本学会の主要テーマである原子力発電所の保全活動においては、現在11基のPWRプラントが再稼働を果たし、今年度中には2基のBWRプラントが再稼働する予定です。再稼働したプラントの新しく追設した設備の保全や長期間停止していたプラントの保全など、学会として整理・検討すべき課題があると思います。更に、確率論的手法に基づく保全は、海外では実際の保全に活用されていますが、わが国では、活用が進んでいない状況から、確率論的手法の保全への活用についても検討を加速していきたいと考えております。
一般産業界では、AIを用いた種々の技術が開発され、実用化されています。原子力発電所においては、いくつかの制約があり、活用が進みづらいところがありますが、現場ニーズと最新の研究成果やシーズを組み合わせて克服していきたいと思います。産学連携をうまく進める場を日本保全学会が担えればと考えます。
脱二酸化炭素を進める中で電力需要が増えるなか、半導体工場やデータセンターの増設などで益々電力需要が増える方向です。これらを補う発電所の増設や既存発電所の保全が非常に重要になる中、若手技術者が減り、発電所などに携わる技術者も減少してきています。建設・保全活動に従事する会社の採用は、非常に苦戦が続いており、レベルの高いベテラン技術者からの技術継承が難しくなってきております。画像などでの技術継承はもちろんのこと、作業を機械化し高い技術をAIに学習させるなど、人から人への継承から一歩踏み出すことが必要であり、日本保全学会の場において、産学連携して解決の方向性を導き出したいと考えております。
私の会長としての抱負を述べさせていただきましたが、会員の皆様、北海道・東北支部、西日本支部の皆さまなど、多くの方々の協力を頂き、一緒に活動していくことで、初めて良い成果が出るものと考えております。会員の皆様方、支部の皆様方からの積極的なご提案、ご協力をお願いし、挨拶文とさせて頂きます。
2024年 7月