日本保全学会第13回学術講演会の開催にあたって
平成23年3月15日の福島第一原子力発電所での事故から、はや5年と4か月が経ちました。被災地ではまだ避難生活に苦しむ住民の方々がいますが、一方で少しずつではありますが避難指示区域の解除も始まっています。全て停止していた原子力発電所も九州電力川内原発1・2号機と関西電力の高浜原発3・4号機が再稼働を果たし、四国電力伊方3号機と関西電力の高浜1・2号機も新規制基準への適合性審査に合格して現在は使用前検査等に対応中です。そのほか現在は残された多くの炉が審査中であり、徐々にではありますが再稼働する原子力発電所の数は今後、確実に増えていくものと予想されます。
再稼働を果たした原子力発電所に求められるのは、今まで以上の安全確保への取り組みです。その中で注目されるのがリスク管理です。すなわち、深層防護第1層(異常の発生防止)、第2層(異常の拡大防止)、第3層(事故時の影響緩和)からなる過酷事故防止対策としてのリスク管理のみではなく、過酷事故発生時の原子炉に対する危機管理(第4層)と過酷事故を起こした原発の周辺地域に対する緊急避難等の危機管理(第5層)まで拡大したリスク管理が求められます。
改めて言うまでもないことですが、上述のように拡大したリスク管理を支える重要な要素の1つが、保全活動であることは明らかな事実です。私たちはこれまで以上に保全を向上・進化させ、リスク管理の実現に貢献しなければなりません。第13回学術講演会が、会員同士の情報交換・議論・成果の共有を行う場となり、この貢献への一助となることを期待します。
ところで、日本保全学会=原子力プラントの保全を考える学会、と思われがちですが、当然ながら保全は機械や工業プラント、社会インフラ、情報ネットワーク、防災・防犯セキュリティなど、原子力のみならず現在社会を支えるあらゆる「システム」を健全に保つために欠かせない活動です。さらに視点を変えれば医療も人体というシステムを保つための保全活動の一つに他なりません。このため、第13回学術講演会からは論文募集のスコープに「核セキュリティ」、「医療」を追加しました。投稿件数はまだ少ないですが、今後はさらに多くの分野からの投稿拡大を目指し努力する所存です。
2016年7月25日