原子力発電の安全は,設備を健全な状態に維持する点検および保守と,確実な運転技術によって支えられています.原子力発電プラントは数万点の機器や部品によって構成された巨大システムであり,そのシステムを常に健全な状態に保つことが点検・保守の重要な役割です.
これまでは,一定の時間が経過したら機器の状態の良否に関わらず,停止,分解して点検および保守を行うという時間基準保全に則った保全が行われてきましたが,昨年施行された新検査制度では状態基準保全の考え方が取り入れられ,点検ならびに保守の際に確認された機器の状態を把握し,それぞれの機器の特性を分析することにより,点検の方法,頻度・時期を合理的に決めていくことにより,点検・保守の品質を向上させて原子力発電の安全性・信頼性を一層高めていくことが可能となり,現在,その適用が各発電所で進められています.
ここで,新検査制度が施行された現在,実施する保全活動を正当化する技術的根拠がこれまでにも増して強く求められるようになっていますが,状態基準保全のキーとなる状態監視技術には,蓄積された各種機器の状態監視データや知見を活用すれば,機器の点検周期延長に対する技術的根拠を準備できるだけでなく,機器の異常徴候が検知された場合,原子力発電所の安全性が十分に確保されていることの技術的根拠と確信を持ちながら当該機器の是正措置を加えるタイミングを検討することができるなど,現状の保全を格段に高度化,適正化できる可能性が秘められています.
今回の保全セミナーでは,上記のような背景を踏まえつつ,これまでのセミナーとはやや趣向を変え,状態監視技術の保全への活用について,海外ならびに他産業における事例の紹介を中心としたプログラムを構成しました.第一部では,我が国における状態監視技術の現状として,最新の状態診断技術や種々の業種における状態監視技術の適用事例について解説いただきます.また第二部では,海外における状態監視技術として,米国や欧州での最新事例について様々な角度から紹介いただきます.さらに今回のセミナーでは,特別講演として中国の原子力発電事情について,華北電力大学の陸道綱先生に「中国における原子力発電所の保全の現状と将来」と題した講演をいただきます.
本セミナーは,状態監視技術に関係する皆様を始め,これに期待する方々にも多数参加いただける機会ですので,情報と価値観の共有の一助にもしていただければ幸甚です.
最後になりますが,講演者および座長の方々,実行委員の皆様を始めとして,本セミナーにご協力いただいた方々および関係機関に心よりお礼を申し上げます.また,日本保全学会事務局の関係各位には本セミナーの企画・運営にいつもながらのご配慮の行き届いたご対応を賜りました.記して謝意を表します.