―これまでに検討してきた技術の評価及び状態監視技術の高度化―の設置趣旨
(第9フェーズ:2022/2023年度)
はじめに
日本保全学会では、これまで8フェーズにわたって「状態監視保全技術に関する調査検討」分科会を設置して活動を展開してきた(平成18/19年度、平成20/21年度、平成22/23年度、平成24/25年度、平成26/27年度、平成28/29年度、平成30/2019年度及び2020/2021年度)。その活動内容は以下の通りである。
第1フェーズ:
「状態監視保全技術に関する調査検討」分科会(平成18、19年度)検討課題は、
状態監視技術・モニタリングシステムの適用状況の調査
米国のCBMに基づく検査システム等の調査
我が国の他産業におけるCBMに基づく検査システム等の調査
CBM新技術の育成
我が国の原子力プラントにおけるCBM技術適用ガイドラインの策定
第2フェーズ:
「状態監視技術の高度化に関する調査検討」分科会(平成20、21年度)検討課題は、
- 状態監視技術の適用を意図した“故障例の分析”
- そのための技術戦略の検討
- 各手法の判定基準の設定方法
- 新しい状態監視技術の可能性や動向調査
- 学術機関における研究活動の支援
- 欧州における状態監視技術の調査
第3フェーズ:
「状態監視技術による回転機器の総合診断の調査検討」分科会(平成22、23年度)検討課題は、
- ポンプを主たる対象機器として、実機モデル試験の実施を前提に「ポンプの総合診断」技術の構築の考え方の整理
- そのための部品モデル及び実機モデルによる検証/確認試験
- 新しい状態監視技術の可能性や動向調査
- 学術機関における研究活動の支援
- 海外における状態監視技術の調査(但し、福島事故の影響で中止)
第4フェーズ:
「状態監視技術による回転機器の早期異常診断システムの調査検討」分科会(平成24,25年度)検討課題は、
- 複数の状態量、プロセス量の「定量的相関性」のくずれから異常を検出する手法の開発
- ポンプ及びポンプを含む試験ループを用いた確認試験
- 上記手法の有効性の評価
- 上記手法の適用可能対象の整理
- 各種先進的状態監視術の調査
第5フェーズ
「回転機器の状態監視技術高度化に関する調査検討」分科会(平成26,27年度)検討課題は、
- 回転機器の各種構造系異常により変化が顕在化する特徴量、データ間の相関の整理
- ポンプを用いた確認試験
- 複数データの相関性を用いた構造系異常診断手法の開発、評価
- インダストリアルネットワーク及びベイズ統計を中心とした状態監視技術に関する最新動向等について情報の収集
第6フェーズ
「状態監視技術高度化に関する調査検討」分科会(平成28、29年度)検討課題は、
- 廃炉設備活用技術の検討
- 広域モニタリングによる異常の早期検知技術の開発
- マイクロ波を用いた広域一括減肉検出技術(損傷レーダ)の開発
- 音響診断による設備監視効率化の検討
第7フェーズ
「状態監視技術高度化に関する調査検討」分科会(平成30、2019年度)検討課題は、
- AIの保全への活用についての調査・検討
- 広域モニタリングによる異常の早期検知技術の開発
- マイクロ波を用いた広域一括減肉検出技術(損傷レーダ)の開発
- 音響診断による設備監視効率化の検討
第8フェーズ
「状態監視保全技術に関する調査検討」分科会(2020、2021年度)検討課題は、
- AI及び状態監視技術の保全への活用についての調査・検討
-
広域モニタリングによる異常の早期検知技術の開発
- AIを活用したガイド波による配管エルボ部の減肉評価
- AIを用いた音源分離手法による音響診断の高度化
目標を効率的に達成するために、2020、2021年度もブリテンという形で成果をまとめた。16年間にわたる活動の成果は、2冊の技術報告書(平成18と19年度)及び40巻のブリテン(Vol.1;No.1,No.2、Vol.2;No.1,No.2,No.3、Vol.3;No.1,No.2,No.3、Vol.4;No.1,No.2,No.3、Vol.5;No.1, No.2, No.3、Vol.6;No.1, No.2、Vol.7;No.1, No.2, No.3、Vol.8;No.1, No.2, No.3、Vol.9;No.1, No.2, No.3、Vol.10;No.1, No.2, No.3 、Vol.11;No.1, No.2, No.3 、Vol.12;No.1, No.2, No.3 、Vol.13;No.1, No.2, No.3 、Vol.14;No.1, No.2, No.3)にまとめられている。
設置の趣旨
CMT分科会の設置は、「原子力業界は状態基準保全の導入が遅れている」との認識のもと、「状態監視技術の望ましい姿を体系的に整理し、この分野の学術的進展に寄与したい。」(平成18年度設置趣意書)という趣旨に端を発している。これまで、機器の異常を早期に検知する様々なテーマを設定し、実験データの取得に努めてきた。その例を掲げると、「AIを用いた音源分離手法による音響診断の高度化」「AIを活用したガイド波による配管エルボ部の減肉評価」(以上、第8フェーズ(2020/2021年度))など、多くのテーマがある。
そこで、第9フェーズ(2022/2023年度)は、これまでの実施体制は基本的に維持するが、調査WGを廃止して、これまで検討してきた技術を評価する評価WG及び状態監視技術の高度化の検討を行う技術WGを設置し、実機適用に向けた総合技術の確立と展開を図りたいと考えている。
以上より、第9フェーズでは、以下の項目について、検討・評価を行う。
評価WG
目的:
状態監視技術としてこれまで検討してきた技術(以下、検討技術という)に関して、実機適用性能に関する評価を行うとともに、現状のCMT技術の原子力プラントの適用実績についても調査・評価し、保全最適化に向けた状態監視技術の適用の拡大を検討する。
- 従来成果のとりまとめ
- 現状技術の適用実績の調査・評価
- 総合評価
技術WG
- 「腐食減肉モニタリング技術としてのパルス渦電流探傷法の有効性評価研究」
近年強い注目を集めているパルス渦電流探傷法(Pulsed eddy current testing)に関し、配管肉厚評価における通常のECTとの差異の有無及びその度合いを定量的に明らかにする。 - 「時系列データによるAIを用いた状態診断の検討」
機器の状態を音響で診断する音響診断技術について、ノイズ影響を低減し状態診断精度を高めることを目的として、ディープなネットワーク構造を持つAIモデル(環境音分類AIなど)を用いた状態診断の検討を行う。さらに、振動センサで得られるデータなどへの適用性についても検討する。
期待される成果
- CMT分科会にて長年蓄積してきた状態監視技術の実機適用性を評価することにより、保全最適化に向けた状態監視技術の適用の拡大の見通しが得られる。
- 機器の異常の兆候を早期に検知し、異常の進展を確実に把握・評価する方法の見通しが得られる。
調査期間と参加費
- 調査期間:2022年8月~2024年3月(約2年間)
- 参加費:原子力関連事業者:50万円/年、他産業事業者:40万円/年、学識経験者:無料
分科会の構成
- 参加機関:電力事業者及び関連企業、プラントメーカ、大学及び研究機関 等
- 分科会等:参加各機関からの委員によって構成される。分科会の下に幹事会を設け、分科会運営等を行う。また、委員の参加による評価WG及び技術WGを設け、これまで検討してきた技術の評価や試験等の計画、実施、評価等を行う。
活動予定
- 分科会:3回/年
- 幹事会:随時
- 評価WG、技術WG:随時
成果報告の形態
成果は、分科会およびブリテンにより逐次報告する。
尚、成果の活用は参加各機関に限られる。また、本分科会の成果が、保全技術者の確保や
実質的な産学協同による成果の達成などの良い例となることが期待される。